「最近、まわりが法人にしてるんやけど…」
「ひまわり、ちょっと聞いてええか?最近、同業の仲間が次々と法人にしててな。『法人にしたらええぞ』って言われるんやけど、正直ようわからん。俺も個人事業でずっとやってきたけど、ほんまに法人ってええんか?」
兄・ゆうたが、現場帰りの作業着のまま、缶コーヒー片手にぼそっと言った。塗装業として10年以上個人事業を続けてきた彼にとって、法人化はどこか“他人事”だった。でも、周囲の変化に少し焦りを感じているようだった。
「うん、法人化って言葉だけ聞くと大げさに感じるかもしれないけど、実は事業の規模よりも“制度の選び方”がポイントなんだよ。まずは、個人事業と法人の違いを“立場”から考えてみようか」
「個人と法人って、そもそも何が違うん?」
「個人事業って、俺が全部責任持ってやってるやん?法人にしたら、責任が軽くなるとかあるん?」
「そういう話もあるけど、まずは“人格”の違いを理解するのが大事。個人事業は、事業と自分が一体。法人は、法務局で登記して“会社という別人格”を作ることになるの。つまり、ゆうた兄ちゃんが“個人”として仕事してるのか、“会社の代表”として仕事してるのかで、制度の扱いが変わるんだよ」
法人の設立手続きについては、法務省|登記の申請方法についてで確認できます。
制度の違いは“立場の違い”
比較項目 | 個人事業主 | 法人(株式会社など) |
---|---|---|
法的な立場 | 自分=事業 | 法人格を持つ別組織 |
契約・信用 | 個人名義で契約 | 法人名義で契約、信用度向上 |
税制 | 所得税(累進課税) | 法人税(定率)+役員報酬に所得税 |
社会保険 | 国民健康保険+国民年金 | 健康保険+厚生年金(法人が半分負担) |
経費の扱い | 限定的(家事按分など) | 法人経費として幅広く認められる |
「なるほどな…法人にすると、制度の枠が変わるってことか」
「そう。だから、法人化って“規模が大きいからするもの”じゃなくて、“制度を選ぶ”っていう考え方なんだよ」
「法人にしたら、何が変わるん?」
「節税ってよう聞くけど、ほんまにそんなに違うんか?」
「節税って言葉だけが一人歩きしてるけど、実際は“税の仕組みが変わる”ってこと。個人事業は所得税で、儲けが増えるほど税率も上がる。法人は法人税で定率やから、利益が一定以上あると有利になることがあるよ」
所得税と法人税の違いは、国税庁|税の種類としくみでも詳しく解説されています。
「俺に向いてるかどうかって、どう考えたらええん?」
「それは“事業の目的”と“将来の設計”によるかな。例えば、今後スタッフを雇いたいとか、家族を従業員にしたいとか、事業を引き継ぎたいとか、そういう展望があるなら法人化は選択肢になるよ。逆に、ひとりで完結する仕事で、収入も安定してるなら、個人事業のままでも十分ってこともある」
「なるほどな…法人化って、ただの形式やなくて、“働き方の設計”なんやな」
「そう。法人化は“制度を選ぶ”ってこと。だからこそ、焦って周りに合わせるんじゃなくて、自分の事業に合った形を選ぶのが一番大事なんだよ」
「周りが法人にしてるから不安になるけど…」
「周りが法人にしてるから不安になるけど、俺は俺のペースで考えたらええってことか」
「うん。法人化は“目的”があってこそ意味がある。例えば、社会保険に入りたい、信用力を上げたい、経費を柔軟に使いたい、事業承継を考えたい…そういう“制度を活かしたい理由”があるなら、法人化は有効。でも、なんとなく不安だからってだけで法人にしても、手続きや管理が増えるだけで、メリットを感じにくいかもしれない」
まとめ:法人化は“制度を選ぶ”という働き方の設計
- 法人化は事業の規模ではなく、制度の選択によって決まる
- 税制・社会保険・信用力・経費の扱いなど、制度面での違いが大きい
- 法人化のメリットは“節税”だけでなく、“制度の選択肢が広がること”
- 手続きや管理は増えるが、ツールや専門家の活用で負担は軽減できる
- 自分の事業の目的や将来設計に合わせて、制度を選ぶことが重要