法人化は「節税マジック」ではない

相続・事業承継とお金
〜資産管理会社の仕組みと本質〜

幻想としての「節税マジック」

「資産管理会社を作れば節税できる」――そんな話を耳にしたことはありませんか。特に50代を迎えると、老後の生活や相続、税金への不安が現実味を帯びてきます。

  • 子どもに迷惑をかけずに資産を残したい
  • 税金で資産が目減りするのは避けたい

こうした思いから「法人化すれば魔法のように税金が減る」という幻想が広がりやすいのです。

しかし、実際に会社を設立し資産管理の仕組みを体験すると分かるのは、法人化は決して魔法ではないということ。節税は副産物にすぎず、本質は 「資産を守る器をつくること」 にあります。

法人化の仕組みと本質

法人化とは、個人の財布と法人の財布を分けることです。

  • 個人の所得は累進課税で最大45%
  • 中小企業の法人税は年800万円以下なら約15%

この差が「節税効果」として注目されます。

資産管理会社を設立すれば、不動産や株式を法人名義に移し、家賃や配当を法人収入にできます。管理費や税金を法人経費として処理し、家族に役員報酬を支払うことで所得分散も可能になります。

さらに、不動産を法人に移すことで相続の形も変わります。個人所有の不動産は分割が難しく、相続トラブルの火種になりがちですが、法人化すれば「株式」という形で分割でき、承継がスムーズになります。

事例:不動産収入を法人化したケース

ある60代の男性は、地方都市に複数の賃貸アパートを所有していました。年間の家賃収入は約1,200万円。個人で申告すると累進課税により税率が高く、手取りが大きく減ってしまう状況でした。

そこで資産管理会社を設立し、アパートを法人名義に移しました。法人の収入として家賃を計上し、管理費や修繕費を経費に。さらに、家族に役員報酬を支払うことで所得分散を実現しました。結果として、税負担は年間で約200万円軽減され、同時に相続の際には「法人株式」として承継できる形が整いました。

このケースでは、節税効果だけでなく、相続の円滑化と資産管理の安定化が大きなメリットとなったのです。

見落とされがちなリスク

一方で、法人化には見落とされがちなリスクもあります。

  • 設立・維持コスト:登記費用や均等割、税理士費用など、年間で数十万円の固定費がかかる
  • 財産移動の制約:一度法人に移すと個人に戻すのは難しい
  • 税務署リスク:節税目的だけの「ペーパーカンパニー」と判断される可能性
  • 社会保険・年金への影響:法人化によって保険料負担が変わり、老後の年金額に影響するケースもある

節税だけを目的にすると、思わぬ落とし穴に陥ることがあるのです。

法人化を成功させるために

だからこそ、法人化を考える際には「節税」だけに目を奪われてはいけません。法人化は資産を未来へつなぐ器であり、長期的な資産ポートフォリオの一部として位置づけるべきです。

  • 老後資産を守りたいのか
  • 相続税対策をしたいのか
  • 家族に所得分散したいのか

目的を明確にし、その目的に応じて信頼できる専門家と相談しながら、自分に合った仕組みを整えることが成功の鍵となります。

法人は、大切な財産を守り、未来へつなげる強力な器になります。節税の魔法ではなく、安心をつくる仕組みとして、冷静に判断することが求められます。

ご案内

本記事は一般的な知識と経験に基づく内容です。状況によって最適な選択肢は異なりますので、必ず専門家にご相談ください。

タイトルとURLをコピーしました